混沌とした打ち上げ会場を後にする。
 辛うじて意識のあった関係者には、帰宅すると伝えておいた。
 足元の覚束ないミクの様子に事情を察した者は、詮索することなく「お疲れ様」と送り出してくれた。
 ミクは私の左腕を抱き込んだまま、放す気配すらない。

 タクシーではなくハイヤーを呼んだのは、ミクがお酒を飲んでしまったからだ。
 人造物で年齢が無いに等しい私達とはいえ、表向きミクは16歳である。
 やはり飲酒はマズイ。
 マスコミに有ること無いこと報道されて傷付くミクなど見たくはないし、何より、運転の荒いドライバーに当たってしまったら、初めてのお酒で酔っているミクが、乗り物酔いとの相乗効果で確実に気分を悪くするだろう。
 明日はせっかくのオフなのに、一日中ベッドで苦しむはめになりかねない。
 そんな休日は私もゴメンだ。

 地下駐車場に到着すると、ハイヤーが滑り込んできて目の前で停車した。
 ミクを先に乗せ、私も後に続く。
 自宅――C社製のボカロは一箇所で共同生活をしている――の住所を告げると、ハイヤーは静かに動き出した。
「めーちゃん…」
「眠いんでしょう? 着いたら起こすから、少し寝てなさい」
「うん…」
 ミクは私の肩にもたれて、素直に目を閉じた。


お酒の力も借りてみた【ミクメイミクver.その後】


 AM 01:00 自宅に到着。
 眠そうなミクを促して、ハイヤーから降りる。
 玄関を開けようとしたら、鍵を持った右手をミクに押さえられた。
「ミク?」
「…………」
 何か言いたげな表情で、でも視線はウロウロと落ち着かない。
 ミクが何を言いたいのかすぐに思い当たって、くすぐったい気持ちになる。
 どうやら、だいぶ酔いが醒めてきたらしい。
「大丈夫よ。約束を反故になんてしないから」
 耳元で囁けば、ミクの頬が赤みを帯びる。
 私の言葉に安心したのか、右手は直ちに開放された。

「ただいまー」
 真っ暗で静まり返った空間に、私の声が消えていく。
 鍵を閉める音が妙に響いた。
 先に入ったミクが振り返ったのが、空気の動きで分かる。
 電気を点けようと壁に手を這わせる私に、ミクが抱きついてきた。
「……めー、ちゃん…」
 縋るように背に回された腕に、ぎゅっと力が篭る。
 私は電気のスイッチを探すのを止め、ミクを抱き締め返した。
「……したい…?」
 問いかけると、ミクの頭が小さく動く。
 縦方向に。
「お風呂、どうしよっか?」
 少し待ったけど、ミクの返事がない。
 私は問いを重ねてみた。
「起きてからにする?」
 ミクが無言で肯定を返してくる。
「部屋は、どっちにする?」
 ミクはやっぱり無言のまま。
 問いかけはイエスノー方式が良さそうだ。
「私のトコでいい?」
 また小さく頷いた後、ミクの顔がパッと上った。
 暗闇に慣れてきた目に、うっすらとミクが涙ぐんでいるのが見えた気がした。
「ぃじわる、しないで…っ」
 結構真面目に聞いてたんだけどな。
 当然、焦らしたつもりはない。
 でも、ミクがそう受け取ってしまったなら、私が悪いんだろう。
「ごめんね」
 私はミクにキスをした。


 めーちゃn…メイコの部屋に着いたので、わたしはヘッドセットを外した。
 ヘアアクセサリーで繋がっていたエクステンションも外れ、わたしの髪が本来の長さに戻る。
「ふふ。“私のミク”ね」
 エクステンションを外すと、メイコはいつも嬉しそうに笑う。
 踝まであるツインテールのわたしは、“みんなのミク”。
 でも、肩甲骨程度の長さの髪をしたわたしは、“ただのミク”。
 それが嬉しい。
 普段はお姉ちゃんのめーちゃんが、わたしだけのメイコになってくれるから。
「めーちゃん…」
 外したエクステンションをその場に捨てて、わたしはメイコに抱きついた。
「お帰りなさい。お疲れ様」
「ただいま…」
 頬を寄せると、優しい温かさと甘い香りに包まれる。
 嬉しい。
 ぴったりくっついているから、メイコの鼓動も感じ取れる。
 トク、トク、トク、って、規則正しい。
 安心する。
 でも今、急に。……何でだろう。
 お酒で、頭の中がふわふわしてるせいなのかな。
 この規則正しい鼓動に対して、安心する以上に、思ってる。
 ――もっとメチャメチャに、乱れてほしいって。
「メイコ…」
 呟くと、少しだけ鼓動が乱れた。
「ミク、ん…」
 何か言おうとしたメイコの口を塞ぐ。
 何度もキスしながら、どんどん邪魔なものを外していくと、メイコが少し困ったような顔で身じろぎした。
 恥ずかしがってる。可愛い。
 メイコはいつも余裕があって、わたしを甘やかしてくれる。
 でもメイコ自身は、全然わたしに甘えてくれない。
 どんなに凹んでる時でも、わたしをぎゅーって抱き締めるだけで、肝心の悩みを打ち明けてはくれない。
 信用されてないとは思ってないけど、寂しい。
 だから。
「っは、…。ミクが…するの…?」
 ベッドに押し倒すと、メイコが聞いてきた。
 メイコはされるのが苦手。
 あの自分が無くなっていくような感覚が怖いみたい。
 でも、今のわたしにやめるつもりは無い。
 だって、メイコがわたしに縋ってくれるのは、その時だけだから。
「言うこと、聞いてくれるんでしょ…?」
 約束を理由に、メイコの抵抗を封じた。
「…ええ、聞くわ。ミクがそうしたいなら」
 短くなったわたしの髪を、メイコの手が優しく撫でる。
 わたしが、メイコだけのミクである、証。
「「…大好き」」
 告白が重なった。
 嬉しい。
「ミク…」
「メイコ…」
 わたし達だけの時間が始まる。

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通行人C様より頂きました。鯛で海老を釣りました。わーい!
なんかお返しに描ければいいなあとぼんやりおもってます。

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